#1『冷静さという鑑定道具』

2018年西日本豪雨、
1995年阪神・淡路大震災。
広域災害のスペシャリストが語る、
大規模災害との向き合い方。

プロジェクト

現場のリアルとは!

広域災害鑑定でのエピソード

オカモト

オカモト1990年入社

内山鑑定が提供するサービスのひとつである「広域災害鑑定」。広域災害とは大規模な自然災害のことを指し、このサービスでは現地に赴いて、損害鑑定を行います。数日から数ヶ月間まで、災害の規模や対応する鑑定人によって出張期間はさまざま。この鑑定ならではの大変さ、エピソードなどを語ってもらいました。

2018年西日本豪雨の事案をご担当されたとお聞きしました。概要を教えていただけますか?

はい。あれは西日本豪雨の被害で、愛媛県の大洲市でのいわゆる水害ですね。街の中心部が水に浸かり、私が担当した大型ショッピングモールでは2メートルを超えるほどの浸水がありました。大家さんの建物の保険ということで、ショッピングセンターの全ての建物、建物の外にある看板や外灯、受電設備、浄化槽ポンプ等の機械などの鑑定でした。

最初に被害を見られた時の印象はいかがでしたか?

建物はたくさんあるし、どこから手を付けたらいいかなというのが第一印象でした。ただこれは大きな案件の常ですが、まず全体の大まかな損害を捉えた上で、今度は小さく個別に見ていくことをイメージしました。最初から細かく見ていくとなかなか終わりが見えなくなってしまうんですよね。

とても苦労されたこと、大変だったことは?

この事案に関しては損害額が億単位になることが想定できたので、鑑定における金額の妥当性についてはより誠実に向き合いました。例えば損害額を減額する場合、つまり機械等の損害が想定よりも低く見積もられ、結果として保険契約者が受け取る保険金額が下がる時に、なぜ減額するのか。その根拠立てですよね。当たり前のことではあるんですが、そこをしっかりと押さえていきました。

鑑定額が大きいことで変化することはありますか?

保険会社から頂戴する鑑定料というのは、損害額が基準になるんですね。ですので損害額が大きいほど、いわゆる会社の売上である鑑定料が大きくなるわけです。大きな案件を鑑定すれば売上は確かに大きくなるんですけど、その分、大変なことも増えてくる感じですね。

鑑定がひと通り終わった時の心境は?

正直に言っていいですか…。次の案件が山ほどあるんですよ。なのでひと仕事終えたから自分への労いとして「よし、飲みに行こう」ということはなくて。これ終わったから、次やらなきゃという気持ちです(笑)。

これまで多くの広域災害に立ち会われていて、1995年の阪神・淡路大震災でのご経験もあるとお聞きしました。

はい。まず1週間、淡路島で任務にあたりました。その次の週からは、大阪、神戸、姫路の間を移動しながら、ずっと調査を進めていきましたね。

被災のインパクトは想像以上でしたか?

もちろん大きかったです。しかし、阪神・淡路大震災のような大きな災害以外でもインパクトを残すような例は数多くあります。そのひとつが台風の被害です。軒並み電信柱が倒れている、屋根がない家があるとかですね。それはそれでショッキングな現場です。

ショックさのあまり仕事が手に付かなくなることは?

それはないですね。そこは切り替えですよね。例えば火災事故であれば、物が燃えるだけであればいいんですけども、そうでない現場もあるわけです。ここで亡くなられていたんだなとか、そういう跡もありますし。そういうところにも入っていかないといけない。ですので、ショックを受けたとしても私たちはどうするのか、何ができるのか、やるべきことは何かというのはいつも冷静さを保ちながら考えますね。

ご親族の方への配慮も大切ですよね。

おっしゃる通りですね。どんな現場であれ、そこで被害に遭われた方々への配慮をいつも大切にしています。例えば、被害を受けたモノの写真を撮る際も、所有者の方に許可をいただいてから撮る、というようなことです。そうした姿勢は当たり前のように求められる部分ではあります。

広域災害ならではの印象深いエピソードは?

阪神・淡路大震災の時ですとスーツで現場に行くのはかえって失礼というか目立ってしまうので、作業着で現場へ向かいました。作業着で現場へ向かうのは今でこそ普通なんですが、当時、保険に関わる人はスーツ、というのは一般的でした。阪神・淡路大震災のその時は、作業着でカメラ、筆記用具などを上着のポケットに全部入れて、手ぶらの状態で回って調査しました。1日に何軒も見て回るので、疲れて道端で休憩するんですね。その時、「兄ちゃん、頑張れよ」「炊き出しあるから、食べていき」と声をかけてもらった時は本当にうれしかったですね。

最後に、何年目ぐらいから
そうした大きい案件はできるようになるのですか?

支店によって違うと思います。若手ばかりの事務所であれば、若手でもそういう案件を担当しますし、逆に人数の多いところであればベテランが担当することもあるんですけども。私のいたところは、人数が少ないことや同業他社が少ないというもあり、1〜2年目から結構大きい案件を担当してきましたね。

たとえどんな現場であっても、冷静さ、誠実さを忘れない。
それが鑑定人の姿勢として大切であると感じました。
貴重なお話、ありがとうございました。